ウクライナ戦争も1年が立とうとしている。
国際社会のトップ政治家たちもこの戦争をどんな形で収束に持って行けるのか、ハッキリした見通しは持てていないだろう。
とりあえず現状をざっと確認してみたい。
2022年の2月28日にロシアがウクライナの侵攻に踏み切った。ロシアはすでに事実上、ウクライナの東部4州(ドネツク州、ルガンスク州、ザポリージャ州、ヘルソン州)を制圧している状況であり、2022年の9月30日にはすでにプーチンがその4州の併合宣言を出している。ただロシアが思うように攻め切れていないのも事実で、実際、当初のキーウへの電撃的攻撃と制圧の目論見はあっさり頓挫してしまった。その後も西側諸国が供与する武器でウクライナ軍はロシア相手に防戦と言えどかなり食い止めているのも事実であり、ジャベリン(対戦車ミサイル)などの武器が大きな戦果を挙げていると言われる。ドイツからレオパルト、イギリスからチャレンジャーなど数10台の新型戦車が新たに供与される予定であり、ウクライナ兵の一部は操戦車の訓練に従事していると言われる。
戦争の発端については、ウクライナがNATOに加盟する動きを見せたのを、プーチンが面白く思わなかった、西側諸国がレッドラインを超えたとみなしたためだ、と見るのが通説だろう。
プーチンの言い分としては、ウクライナの精鋭部隊アゾフ大隊がロシア系住民を虐殺したため、ウクライナ国内のロシア国民を救済するために進軍したのだという建前になっている。これは様々な説が飛び交っていて、アゾフ大隊をめぐる情報の真偽のほどは私にはよく分からない。ただ、それは侵攻のための目先の口実であることはほぼ疑いなく、NATOがロシアの間近に迫ってきたため、そこまでのNATOの東方拡大策にはプーチンにとって我慢がならなかったということだろう。90年2月9日に米国のベーカー国務長官はソ連のゴルバチョフ書記長に対して「NATO軍の管轄は1インチも東に拡大しない」と発言したとされる。プーチンはこの発言をずっと気にしていると見られる。しかし2国間で正式に取り交わす外交文書に明記した文言でもなく、1政治家の思い付きの発言にすぎないため、これにこだわるプーチンがおかしいというのが西側の一般的見方だ。
ロシアが一方的に侵略を始めたのであり、戦争の災禍の責任は全面的にロシアにある、罰せられるべきはロシアだということで、おおむね西側の見方は一致しており対ロシアの経済制裁がかけられている現状だが、少しずつ角度の違った見方も出ている。
エマニュエルトッドのベストセラーですでに有名になったと思われる見方だが、ウクライナ戦争の責任はNATOにある、とする説もある。先述したように、ソ連崩壊の直後は、西側のトップ政治家の一部はNATOを東方拡大しないような態度を見せていた。トップ政治家でなくとも、NATOが東方拡大をエスカレートさせればロシアの感情を逆なでするのは分かりそうな話だ。2021年の9月にはアメリカ主導で多国籍軍とウクライナ軍の軍事演習を実施している。また10月になるとアメリカはウクライナに180基の対戦車ミサイル、ジャベリンを提供している。バイデン率いるアメリカは緊張をあおるような行動をウクライナでとっているのである。さらに12月になると、バイデンは「ウクライナで戦争が起こっても米兵は派遣しない」と発言している。これらの一連の行動はプーチンに戦争を促しているようなものだ、と見る識者も少なくない。
参照文献:
「第三次世界大戦はもう始まっている」エマニュエル・トッド 文春新書
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