なぜここまで伸びたのかというと、単純に「ドイツ人が急に極右化した」という説明では足りません。大きく見ると、移民問題+経済停滞+既成政党への不信+旧東独特有の政治意識が重なっています。
① やはり移民問題は非常に大きい
AfDが大きく伸び始めた転機の一つは、2015~16年の難民・移民問題でした。メルケル政権下で大量の難民を受け入れたことに対し、
「受け入れすぎではないか」
「治安や社会保障は大丈夫なのか」
「イスラム系移民をドイツ社会に統合できるのか」
という不安を持つ層がAfDに集まった面があります。
実際、2026年に発表されたドイツ社会経済パネル(SOEP)の2014~24年データを使った研究では、AfD支持との関係では経済的困窮そのものより移民への懸念の説明力がかなり大きいという結果が出ています。
ただし、ここが面白いところで、直近のAfD躍進を移民だけで説明するのも難しくなっています。
② 「ドイツ経済がうまくいっていない」が加わった
これは近年かなり重要になっています。
ドイツは長年、
安いロシア産エネルギー → 強力な製造業 → 中国などへの輸出
という経済モデルで成功してきました。
ところがエネルギー価格上昇、自動車産業の構造変化、中国企業との競争、脱炭素政策に伴うコストなどが重なり、特に製造業地域では将来不安が強くなっています。
実際、2026年9月のザクセン=アンハルト州選挙では、AfD支持者の投票動機として移民以上に社会保障、欧州の平和、経済政策が目立ったという出口調査分析があります。
つまりAfDは、
「移民を減らせ」
だけの政党から、
「今のドイツの政治・経済運営そのものを変えろ」
という不満の受け皿へ広がっているわけです。
③ 「CDUに戻ればいいじゃないか」とならない
ここがAfD躍進を理解するうえでかなり重要だと思います。
昔ならSPD政権や左派政策に不満を持った保守層はCDU/CSUへ戻ればよかった。しかし現在は、
「CDUも結局、既存政治の一部ではないか」
と考える有権者が一定数います。
2025年選挙では有権者の49%が2021年とは違う投票選択をしたとの分析もあり、ドイツの政党支持そのものがかなり流動化しています。
だからAfDは単なる「CDUより右の保守政党」というより、既成政党全体に対する抗議票の受け皿にもなっています。
④ 特に旧東ドイツで強い
AfDを考えるとき、これは外せません。
2025年連邦議会選挙では旧東独地域でAfDが30%を超えるほど強くなりました。研究では、東部でのAfD支持には移民への否定的態度だけでなく、既存政党からの疎外感や政治制度への不信なども関連しているとされています。
再統一後、旧東独では企業閉鎖や人口流出が長く続きました。現在でも西部との所得・資産・企業本社などの格差を意識する人がいます。
そのため、
「ベルリンのエリートは自分たちのことを分かっていない」
という感覚がAfD支持と結びつきやすい。
これはかなり重要で、外国人比率が比較的低い地域でもAfDが非常に強いケースがあります。ザクセン=アンハルトでは外国籍人口が約9%で全国平均約15%を下回りますが、AfD支持は非常に強い。
⑤ AfDを排除する「防火壁」が逆効果になる側面もある
ドイツ主要政党はAfDとの連立・協力を避ける、いわゆる**Brandmauer(防火壁)**を維持してきました。
これはAfDの一部組織・政治家をめぐる極右的言動への警戒が背景にあります。
ところが支持率が20~30%規模になってくると、
「これだけ国民が投票している政党を、なぜ最初から政治から排除するのか」
という反発も生じます。
2026年8月のARD調査では、AfDとの協力を全面的に拒む人が37%だった一方、「案件ごとに判断」が32%、「一般的に協力してよい」が27%でした。つまりAfDを政治的に隔離することへの社会的合意も以前ほど盤石ではありません。
なので現在のAfD躍進を一言で表すなら、
「移民問題を入口にして成長した政党が、ドイツの現状全般に不満を持つ人々の受け皿へ変化してきた」
と見るとかなり理解しやすいです。
そして2026年9月21日時点でも、AfDの伸長と既成政党の弱体化によってドイツの政治的な「中道」が侵食されている、という分析が出ています。特に東部でその傾向が顕著です。
ここから先がもっと興味深くて、**「ではAfD支持者は具体的にどんな人なのか――低所得者なのか、若者なのか、労働者なのか」**を見ると、日本でイメージされる「極右支持者像」とかなり違うところがあります。
AfDがそんなに有効な経済政策を準備してるの?
そう。そこはAfD躍進を考えるうえで重要な点で、「AfD支持が増えている=AfDが非常に完成度の高い経済政策を持っている」ではありません。 むしろ経済学者からは、AfDの経済政策には「効きそうな部分」と「財源や副作用がかなり怪しい部分」が混在していると評価されています。
AfDの2025年総選挙公約を見ると、経済政策の柱はかなり明快です。所得税・法人税などの減税、社会保険料負担の抑制、連帯付加税の廃止、規制・官僚主義の削減、CO₂課金の廃止、原発再稼働、石炭火力維持、EUの気候政策からの離脱などです。さらにかなり大胆なのが、ドイツのユーロ離脱まで掲げていることです。
このうち、現在のドイツ企業が抱えている問題とかなり噛み合っている部分はあります。現在もドイツ経済の構造問題として、高いエネルギーコスト、投資の弱さ、中国との競争、製造コストの高さなどが指摘されています。たとえばIWも2026年9月の見通しで、高エネルギー価格や投資不足などを引き続き問題として挙げています。
だから、
「エネルギーを安くする」「企業の税負担を下げる」「EU規制を減らす」「製造業を守る」
というAfDのメッセージが、ドイツの製造業労働者や中小企業経営者に響くこと自体は、それほど不思議ではありません。
ただし、「では、その政策を全部実施したらドイツ経済が立ち直るのか?」となると話は別です。
特に問題になるのが財源です。ドイツの有力経済研究機関ifoは2025年の各党公約を分析して、CDU/CSUの減税策でも年間約970億ユーロ、FDPでは約1420億ユーロの歳入減になると試算しました。そしてAfDとBSWはそれ以上に大規模な減税策を掲げており、持続可能な財源が明確ではないと指摘しています。減税による労働供給増などで自然に取り戻せる税収も、一般には減税額の10%未満程度との試算です。
さらにユーロ離脱はもっと大きな問題です。AfD自身は、ユーロを「異なる20経済を一つの通貨に押し込んだ失敗」と位置づけ、ドイツが独自通貨を取り戻せば金融・為替政策の主権を回復できると主張しています。
しかしこれは単なる「規制緩和」ではなく、ドイツの貿易・金融・企業活動の前提そのものを変更する政策です。したがって、移行コスト、為替変動、金融市場、EU域内貿易などへの影響まで考えないと、「ユーロをやめればドイツが豊かになる」と単純には言えません。
なのでAfD支持者の心理を理解するなら、
「AfDにはものすごい経済再生プランがあるから支持している」
というより、
「既成政党がやってきたエネルギー・気候・移民・EU政策がドイツ経済を弱くした。だったら、それを根本から逆回転させよう」
という発想のほうが近いと思います。AfD自身も現在の経済政策を「社会的市場経済への回帰」と位置づけ、減税・規制削減・エネルギー政策転換を前面に出しています。
だから前の話ともつながります。AfDの強さは「経済政策の完成度」だけではなく、「既存路線を全部ひっくり返す」という分かりやすさにあります。
そして、ここは日本から見るとかなり面白いところです。AfDの経済政策を細かく見ると、いわゆる「極右」という言葉から想像するより、減税・規制緩和・小さな政府・安価なエネルギーを重視する市場経済寄りの政策がかなり入っています。その一方で、ユーロ離脱や移民制限のような国家主権・国境を強く重視する政策が同居しています。この組み合わせがAfDの特徴です。
フォルクスワーゲンが数万人以上人員削減してたよね?ああいうのが、雇用不安の象徴だったのかな?
うん、かなり象徴的な出来事だったと考えていいです。しかも、らくだくんの記憶どおり規模が大きい。2024年12月にフォルクスワーゲンは労組と、ドイツ国内で2030年までに3万5,000人超を削減することで合意しました。ドイツ国内の生産能力も年間73万4,000台分削減する計画でした。
ただし、この3万5,000人は一斉解雇という話ではありません。早期退職などを利用した「社会的に責任ある形」で削減し、2030年までの雇用保障も組み合わせた労使妥協でした。
それでも政治的なインパクトは大きいです。なぜならVWは単なる一企業ではなく、「ドイツ製造業の成功モデル」の象徴だからです。
「VWですらドイツ国内で3万5,000人減らさないと競争できない」
となれば、自動車メーカーだけでなく部品メーカー、機械、鉄鋼、化学などで働く人にも、**「次は自分たちではないか」**という不安が広がりやすい。
しかも原因が一つではありません。VW自身も欧州市場の縮小と競争激化を挙げていますが、背景には中国メーカーとの競争、EVへの転換、ドイツの高いコスト構造などがあります。
そして、これは現在進行形です。2026年9月現在、VWはさらにリストラを強化しており、グループ全体ではVW、Audi、Porsche、CARIADを合わせ、2024年末以降にドイツ国内で約5万人の削減が合意されています。さらに9月21日にはドイツ各地で自動車産業の雇用削減に抗議するデモが行われました。
ここがAfDの伸長ともつながります。Reutersも直近、自動車産業の雇用不安が強まるなかで、AfDが工業労働者から支持を伸ばしていることを指摘しています。
だから、AfD支持を単純化して、
「移民が嫌だからAfD」
だけで見ると、かなり見誤ると思います。むしろ一部の工業労働者からすると、
「世界有数の工業国だったドイツで、なぜVWが何万人も人を減らさなければならないんだ?」
という経済的な不安がある。その原因をAfDは、エネルギー政策、EU規制、脱炭素政策、移民政策、既成政党の経済運営などと結び付けて説明しているわけです。
そして今日(9月21日公表)のReutersの記事を見ると、この問題はむしろ2024年より深刻になっています。VWは新たな大規模リストラを進めています。AfDがなぜ「労働者票」まで取るようになったのかを考えるなら、ここはかなり重要な材料だと思います。
この点、**「昔のSPD支持の労働者がAfDへ移ったのか?」**まで追うと、ドイツ政治の変化がかなり分かりやすくなります。
でもAfDって、ナチスみたいな政党じゃないの?
らくだくん、そこはAfDを見るときに一番慎重に区別した方がいいところです。
「AfD=現代のナチ党」とそのまま同一視するのは正確ではありません。 一方で、AfDの中にドイツの極右・民族主義の伝統と接点を持つ勢力や政治家が存在し、それがドイツで深刻な警戒対象になっているのも事実です。現在の報道でもAfDは一般に「far-right(極右)」と位置づけられています。
ナチ党(NSDAP)は最終的に一党独裁を作り、議会制民主主義を破壊し、人種主義に基づく国家を作りました。それに対してAfDの公式綱領は、議会制そのものの廃止や一党独裁を掲げてはいません。むしろ「法治国家」「権力分立」「直接民主制」を掲げ、党規約でも自由民主主義的基本秩序を支持すると明記しています。
経済政策もナチ党とは相当違います。さっき話したようにAfDには、減税、規制緩和、社会的市場経済、国家債務抑制といった市場経済寄りの要素があります。だから、
AfD=NSDAPの復刻版
と考えると、AfDがなぜ普通の労働者や中間層まで支持を広げているのかが逆に見えにくくなります。
ただし、「では普通の保守政党なのか」というと、それも違います。
AfDは移民について非常に強硬です。国境管理の強化、大規模な国外退去の推進、難民受け入れの大幅な制限、「Remigration(再移住・帰還)」などを掲げています。もっともAfD中央執行部自身は、移民背景を持つドイツ国民を一括して国外追放することは否定しており、「remigration」は原則として滞在資格のない外国人の合法的な帰還を意味すると説明しています。
そして問題を複雑にしているのが、党公式の政策と、党内の一部政治家の言動を分けて見る必要があることです。ドイツではAfDの一部勢力について、民族的な「ドイツ人」概念や歴史認識などをめぐって、自由民主主義との整合性が長年問題になってきました。
だから政治的位置関係をものすごく単純化すると、
CDU/CSU(中道右派)―― AfD(急進右派・極右)―― 歴史的ナチズム
という感じで、AfDは右端にかなり近いけれど、だからといって三つ目と同じものではない、と考えた方が実態を捉えやすいです。
そして、さっきのVWの話はここで重要になってきます。
例えば「自分はナチズムに賛成だからAfDに投票する」という人だけで20~30%もの支持を説明するのは無理があります。実際には、
「移民を減らしてほしい」
「電気代を安くしてほしい」
「自動車産業を守ってほしい」
「EUや環境規制が強すぎる」
「CDUもSPDも信用できない」
といった理由でAfDに投票する人もいるわけです。AfD自身も2025年選挙では「雇用への不安」「移民」「気候政策」「既成政党の失政」を結びつけて訴えていました。
なので、**「AfDはナチスなのか?」より、「AfDのどの政策・どの政治家・どの党内勢力が、通常の右派保守とどこで境界を越えるのか?」**と分解して見た方が、この政党の実像はかなり分かりやすくなります。
そこを掘るなら、AfDの中でも特に物議を醸してきたビョルン・ヘッケを見ると、「なぜドイツ人がAfDをナチズムと関連づけて警戒するのか」がかなり具体的に見えてきます。


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