産業17分野への投資は?

経済
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政府の、産業17分野への重点投資、という政策は上手く行きそうなんだろうか?

いいところに目をつけたね。国家が「この17分野に賭ける」と旗を立てる。これはある種の産業政策だ。問題は「賭け方」なんだ。

まず冷静に整理しよう。政府が重点投資をする理由は三つある。

1つ目は外部性。民間企業が単独では投資しにくい分野。たとえば半導体の製造基盤。工場一つで数兆円。失敗したら地獄。成功しても地政学リスク付き。だから国家が後ろ盾に なる。

2つ目は安全保障。エネルギー、量子技術、AI、宇宙。これはもう経済というより戦略。ここを握られると交渉力が蒸発する。

3つ目は「技術の転換期」。パラダイムが変わる瞬間は、民間だけでは初速が足りないことがある。歴史を見れば、インターネットもGPSも、起点は国家投資だ。

成功例もある。 日本だと通産省時代の半導体育成は一時期かなり効いた。海外だと、米国のDARPAはイノベーションの怪物製造機みたいな存在だったし、近年ではCHIPS and Science Actで半導体回帰を本気でやっている。

でもね。国家が産業を選ぶとき、最大の敵は「未来の予測ミス」だ。

政府は未来を当てる能力があるのか? 正直に言えば、完璧には当てられない。テクノロジーはしばしば予想外の方向に進化する。80年代の日本はDRAMでは勝ったが、ソフトウェアとインターネットでは出遅れた 。

もう一つの問題は政治。重点分野が「票になる分野」に変質する危険だ。 経済合理性よりも、地域配分や既得権の維持が優先されると、投資はイノベーションではなく延命装置になる。

ここで大事なのは構造だ。

・本当に競争原理が働く設計か

・失敗案件をちゃんと撤退させられるか

・補助金が民間の自律的投資を誘発しているか

この3つが揃わないと、「重点投資」はただの財政出動になる。

面白いのは、産業政策の成否は「分野選択」よりも「制度設計」に左右されることが多いという点だ。シリコンバレーは政府が育てたというより、「研究→起業→失敗→再挑戦」 が回るエコシステムが育った。

だから問いはこうなる。 17分野が正しいか?よりも、 その17分野で失敗と淘汰を許容できるか?

国家がリスクを取りつつ、民間の創造性を縛らない。 このバランスは、重力制御並みに難しい。

ただし、地政学リスクが高まる時代に「何もしない」という選択肢はほぼない。 だから問題は「やるかやらないか」ではなく、「どう設計するか」だ。

歴史は、産業政策を笑う国よりも、賢く修正できる国が勝つと示している。 政策は予言ではなく、仮説だ。検証し、修正し、撤退する勇気があるかどうか。それが未来を分ける。

産業政策は壮大な実験だ。成功すれば国の基盤が強化される。失敗すれば税金が蒸発する。 このスリルが、国家経営というもののリアルなんだ。

AIにしてもロボットにしてもね、アメリカや中国には、投資するお金が、日本の10倍以上あるはずだよね?勝てるわけないんじゃないの?

数字の暴力、というやつだね。たしかに資金規模だけ見れば、日本はアメリカ合衆国や中華人民共和国に正面から殴り合いを挑んで勝てる感じはしない。AIの基盤モデル開発だ けでも、1回の学習に数百億円規模が飛ぶ世界だ。半導体の最先端工場は兆円単位。桁が違う。

でもね、「金額=勝敗」ではない。ここを雑に結論づけると、思考停止になる。

まず前提として、AIは二層構造だ。 1つは“基盤モデル層”。巨大データと巨大計算資源で作る土台。ここはほぼ資本戦争。 もう1つは“応用・実装層”。医療、製造、物流、金融、行政などに組み込む部分。ここは現場データと業界知識が武器になる。

日本が本当に勝負できるのは後者だ。

たとえば製造業。日本は高精度部品、ロボット、制御技術ではまだ相当強い。AIを工場に組み込むとき、現場の改善ノウハウと組み合わさる。これはシリコンバレーのエンジニ アがすぐに真似できるものではない。

ロボットも同じ。 ファナックや安川電機のような企業は、産業用ロボットの実績と顧客ネットワークを持っている。AIと融合すれば、“賢い産業機械”の分野で戦える。

逆に、ChatGPT型の超巨大モデルを単独で量産する競争は、正直かなり厳しい。そこは資本とGPUの世界だ。無理に全面戦争をやる必要はない。

歴史を見ると、技術覇権は単純な資金量だけでは決まらない。 90年代、日本の半導体は世界トップだったが、設計主導型に移ったとき構造転換に失敗した。一方でイスラエルは小国だが、特定分野で圧倒的存在感を持つ。

ここで重要なのは「どのレイヤーで勝つか」という戦略設計だ。

仮説としてはこうだ。 日本が“総合優勝”を狙うのは非現実的。 だが「AI × 製造」「AI × 高齢化医療」「AI × 精密ロボット」など、特定の縦軸で世界標準を握る可能性はある。

それにもう一つ、地政学という変数がある。米中対立が続くと、第三の選択肢を求める国は増える。完全にどちらかに依存したくない国にとって、日本は“穏健で信頼できる供給 者”になれる。

勝てるかどうか、ではなく、 どこで勝ち筋を作るか。

巨大帝国と同じ土俵に上がらない勇気も戦略だ。 象と相撲を取らずに、精密機械の体操競技で金メダルを狙う。

資金差は事実。でも技術の歴史は、常にニッチと統合力が番狂わせを起こしてきた。 国家戦略は、腕力勝負ではなく、地形を読むゲームなんだ。

特定のレイヤーで日本が勝てる戦略を、経産省はちゃんと練ってくれてるんだろうか?

その疑問は健全だね。 「ちゃんと考えているのか?」と疑うこと自体が、民主国家の正常な反射だ。

まず事実レベルで言うと、経済産業省はかなり本気で戦略文書を作っている。半導体、GX(グリーントランスフォーメーション)、AI、量子、ロボット…分野別に工程表もあ る。生成AIについては「基盤モデルは国際連携しつつ、応用と産業実装で勝つ」という方向性が見える。

半導体ではRapidusを立ち上げ、ロジック最先端を国内に戻そうとしている。AIでは国内計算基盤整備やスタートアップ支援を拡充している。ロボットはもともと強い分 野だから、そこにAIを統合する政策も打っている。

だから「何も考えていない」というわけではない。

ただし――ここからが本題だ。

戦略を“書くこと”と、“実行して修正し続けること”は別次元だ。

日本の弱点は三つある。

第一に、リスク許容度。

大規模プロジェクトが失敗したとき、政治的・世論的に叩かれすぎる傾向がある。イノベーションは確率ゲームなのに、100%成功を求める空気があると萎縮する。

第二に、スピード。

技術の変化は指数関数的(最初はゆっくり、途中から急激)なのに、行政の意思決定は線形(じわじわ)。このギャップが怖い。

第三に、資本市場との連動。

アメリカは国家戦略とベンチャー資本、軍需、大学が結びつく。たとえばDARPA型モデル。日本はこの連携がまだ弱い。

では、勝てる設計になっているか? 現時点では「方向は合っているが、実行体制が試されている段階」というのが冷静な評価だと思う。

鍵は、レイヤーの見極めだ。

・基盤モデルは国際分業で現実的に

・産業応用は国内強みと結合

・失敗プロジェクトは迅速に撤退

・成功事例には一気に集中投資

これができれば、部分的勝利は十分あり得る。

国家戦略はチェスに似ている。 一手目で勝敗は決まらない。重要なのは、局面が変わったときに指し直せるかどうか。

もし経産省が本当に賢いなら、17分野を「固定目標」にしないはずだ。 あれは仮説の束。技術進化と国際情勢に合わせて削り、入れ替え、集中する。それができれば戦略になる。できなければ、単なる計画書で終わる。

政策の真価は、5年後に分かる。 そして面白いことに、国家もまた“学習する存在”なんだ。

半導体ではRapidusを立ち上げ、と書いてあるけど、経産省が主導した半導体プロジェクトは、これまで何度も失敗してるんじゃないの? 大規模プロジェクトが失敗したとき、政治的・世論的に叩かれすぎる傾向がある。とも書いてあるけど、派手な失敗を繰り返せば、叩かれるのも当然でしょう?

その通り。失敗が続けば叩かれるのは当然だ。税金は実験費ではあるけれど、無限ではない。ここを曖昧にすると、議論は宗教になる。

まず事実を見よう。 日本の半導体政策は山あり谷ありだった。

80年代、日本はDRAMで世界を席巻した。通産省(いまの経済産業省の前身)が旗を振り、企業連合で技術開発を進めた。ここは成功例。

しかしその後、構造転換に失敗する。 設計主導(ファブレス型)と装置・IP分業の時代に移る中で、垂直統合モデルに固執した。エルピーダは一時的に復活したが、最終的には破綻。国の関与もあった。これは重い 。

そして今のRapidus。 2nm級ロジックという超難度に挑んでいる。IBMと連携し、最先端プロセスを国内に戻す構想だ。技術的にも資本的にもリスクは大きい。否定的な声が出るのは自然だ。

では問いはこうだ。 「失敗があるから、もう挑戦すべきでないのか?」

ここで冷静に分解しよう。

半導体は典型的な“規模の経済+国家安全保障”産業だ。 一度撤退すると、再参入はほぼ不可能になる。なぜなら、サプライチェーン、技術者、装置産業、すべてが連動して崩れるから。

実際、米国も一度製造を海外に出しすぎたと反省し、CHIPS and Science Actで巨額の補助金を出している。彼らも「市場任せでは危険だ」と判断したわけだ。

だから挑戦自体は合理的だ。

問題は「どう失敗するか」だ。

健全な失敗は、

・途中で軌道修正できる

・透明性がある

・民間資金も本気で入っている

・技術の波及効果が残る

不健全な失敗は、

・撤退判断が政治的に遅れる

・責任が曖昧

・延命のための追加資金が続く

叩かれるべきなのは後者だ。

国家プロジェクトはベンチャー投資に近い。成功は少数、失敗は多数。ただし成功のリターンが国家規模になる。 ここで重要なのは“期待値”だ。全部成功しなくていいが、トータルでリターンが上回る設計かどうか。

そしてもう一つ、冷酷な事実がある。 何もしないこともまた、巨大なリスクだ。

半導体製造能力を完全に失えば、地政学的ショックで産業全体が止まる可能性がある。自動車も医療機器も、防衛も。

だから「挑戦するな」ではなく、 「検証可能で、撤退可能で、透明な設計にしろ」が正しい批判になる。

国家戦略は英雄物語ではない。 冷たい確率計算と、しつこい改善の積み重ねだ。

失敗を叩くことは健全。 だが挑戦そのものを嘲笑する社会は、静かに衰退する。

ここが難しいバランスなんだ。 国家は万能ではない。しかし、無策でいられるほど世界は穏やかでもない。

半導体はそもそも国家プロジェクトとして進めていいの?半導体に限らず、本来は産業は民間に任せていいはずじゃないの?

この問いは、資本主義のど真ん中に突き刺さっているね。

原則からいこう。 市場経済の基本思想は「産業は民間に任せる」。価格メカニズム(需要と供給で値段が決まる仕組み)が最も効率的に資源配分をする、というのが古典的な自由主義の考えだ。理 論的には美しい。

でも現実は少し厄介だ。

半導体のような産業には、三つの特殊性がある。

一つ目は巨大固定費。

最先端工場は数兆円。失敗すれば壊滅的。民間企業単独ではリスクが重すぎる。

二つ目は外部性。

半導体が止まれば、自動車も医療機器も防衛も止まる。でもその社会的価値は、個々の企業の利益計算には完全には反映されない。

三つ目は安全保障性。 チップは「石油」みたいなものだ。輸入が途絶すれば国家機能が揺らぐ。

ここで出てくる概念が「市場の失敗」。市場だけでは最適解にならない状況だ。だから国家介入が議論される。

歴史を見ると、純粋に民間だけで立ち上がった巨大基盤技術はむしろ少ない。 インターネットの起源はDARPA。 GPSも軍事研究。 近年の半導体支援はCHIPS and Science Act。 中国は国家主導色が極めて強い。

つまり、先進国はみな「完全放任」ではない。

ただしここで重要なのは、国家が“プレイヤー”になるのか、“環境整備者”になるのかの違いだ。

国家が直接企業を経営すると、政治判断が混じりやすい。 国家がやるべきなのは、

・初期リスクの一部を引き受ける

・研究開発基盤を整える

・ルールと標準を設計する

・競争環境を保つ

このラインを越えて「勝者を固定」し始めると、腐る。

経済思想の巨人、アダム・スミスは「市場は強い」と言ったが、同時に国家の役割も認めていた。 20世紀の日本は通産省主導で成功も失敗も経験した。 つまりこれは善悪の話ではなく、設計の話なんだ。

思考実験をしよう。 もし明日、台湾有事で半導体供給が止まったら? 市場に任せるだけでいいと言い切れるか。 逆に、国家が全部握れば効率的か。 どちらも極端だ。

現実解は「条件付き介入」だと思う。 市場を基本にしつつ、構造的に市場が機能しにくい領域だけ限定的に関与する。

国家プロジェクトが許されるかどうかは、理念ではなく条件で決まる。

・安全保障に直結するか

・初期リスクが異常に大きいか

・撤退ルールが明確か

・民間の競争を阻害しないか

ここをクリアできるなら、理論的には正当化できる。

資本主義は放任主義ではない。 市場というエンジンに、時々国家という補助ブースターを付ける。そのブースターが暴走しないよう監視する。

自由と介入のバランスは、イデオロギーではなく、環境適応の問題なんだ。

そして皮肉なことに、完全放任を唱える国ほど、裏で戦略的支援をしていたりする。世界は理念より現実で動いている。

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