核武装

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定期的に日本人の間でも核の議論が盛り上がることもあるが、一般的に言って日本政府の中枢部、またメジャーな学識者たちは日本の核武装に否定的と言っていいだろう。

日本の核保有の非現実性

まず日本が核武装をしたらNPTから脱退することになる。すると国際社会から経済制裁を食らい、日本は経済面で大きなハンディを背負うことになるし、外交面で信用を失う、というのが一番の理由だろう。あとは比較的マイナーな議論だが、日本は国連の敵国条項で敵国扱いのままになっており、日本が核武装などしたら、周辺国から見て「いつでも攻め込んでいい敵国」に見えてしまい、周辺国に「日本に攻め入る口実」を与えてしまう、というものもある。敵国条項については1995年に死文化された、という説もあるようだが、条文自体はいまだ削除されていないらしい。日本を攻撃したい国が、この条項を攻撃の口実に利用するかどうか、ハッキリしないと思っておいた方がいいだろう。また、日本はとにかくアメリカとの関係が一番重要なので、アメリカをむやみに刺激しない方がいいだろう、という説もある。実は日本の核武装を一番懸念している国はアメリカだというのだ。第二次大戦の直後のアメリカの対日政策は一口で言って「日本弱体化」だったので、今でもアメリカ内でそのスタンスがある程度続いている、という見方もあるだろう。核を向けられるのを最も神経質に嫌う国はアメリカなのだ。日本がいつまたアメリカに歯向かうか分からない。ただアメリカ政府内でもこの辺りは意見が割れているようであり、「日本はもっと軍事強国化してしかるべきだ」と考えるグループもあるようだ。それに核兵器は開発、維持費に多大なコストがかかる、という核反対論もある。巨額のコストがかかるのは確かだろうが、「核を持たないことによってかかるコスト」との慎重な比較検討がなされているのか・・・?若干の疑問もある。核を持たないことによって、より一層、ミサイルディフェンス(MD)の予算が必要になるかもしれない。戦闘機を余計にアメリカから買う必要があるかもしれない。

ニュークリア・シェアリング

以上のような核保有反対論を経て、より穏健な?核議論としてニュークリアシェアリングが検討されることもある。いわゆる核共有というやつで、NATOでは当たり前に実施されている体制だ。最近も議論になっていたが、今の政府はニュークリアシェアリングにも否定的らしい。ヨーロッパにはNATOがあるので、アメリカがヨーロッパのどこかの国に核兵器を貸し出せば、あとはNATO内でグルグルその核兵器を持ち回る、という便利な運用もできるが、アジアにはその手の軍事同盟が無いのでアメリカから見て貸し出しにくい、という事情もあるようだ。

日本核武装論

以上のような核保有反対論を目にしても、依然として強固に「日本の核武装」を主張し続ける論者たちもいる。その人たちの代表的な意見としてはまず、「アメリカの核の傘」が十分に機能しているのか怪しい、という懐疑論だ。確かに、仮に北朝鮮や中国が日本を核攻撃したとして、その報復としてアメリカが中国を核攻撃した場合、中国はさらなる報復としてアメリカの主要都市を核攻撃することになるだろう。するとアメリカはそこまでのリスクを負ってまで、日本を核で守るか?という懸念があるのだ。それに上記の、「核保有にはコストがかかる」という議論とは真逆になるが、「核はもっとも安価な防衛の要になりうる」という意見もあるようだ。確かに経済力が弱いはずの北朝鮮があれだけ核に頼り切って防衛戦略を組み立てられることからしても、コストパフォーマンスに優れているはずだ、という見方は十分可能かもしれない。

核の有効性

様々な議論はあるし、核兵器削減の国際的議論が盛り上がることがあるにもかかわらず、依然として世界から核が無くならない、それどころか一部では増え続けているようにも見える・・・その理由はもちろん、国際政治の舞台の上で戦う上で、「核はまだまだ切り札として有効な武器だ」と認識されていることにある。北朝鮮を見ていればそれが一番わかりやすいだろう。金正恩はイラク戦争やリビアから教訓を吸収したとも言われる。イラクは「大量破壊兵器を保有している疑い」などと言われながらも、核兵器は保有していなかった。実はアメリカは、「イラクが核を保有していない」ことが分かっていたからこそ攻撃に踏み切った、という見方もある。リビアはカダフィ大佐の時代に、核開発疑惑を払しょくするために核放棄を米英と約束し、見返りに経済制裁を解除してもらった。しかし2011年、「アラブの春」の余波を受けてリビア国内が混乱すると、NATOはリビアへの軍事介入に踏み切り、混乱の中でカダフィ大佐は殺害されてしまった。リビアが核を保有し続けていたら、NATOは介入できなかっただろうと言われる。ここから真っ先に教訓をつかんだのは北朝鮮だろうが、中露、イラン含め世界中の政府が、「核を持たないとはそういうことだ」と認識しているに違いない。

日本は半核保有状態!?

上記の日本の核保有反対論の中でもメジャーなものの一つが、日本はすでに半核保有のような状態なので、今さら核保有を急ぐ必要はない、というものだ。どういうことかというとまずは「アメリカの核の傘」がある。「密約」議論で有名になったが、日本の「非核三原則」は成立していない、という話がある。三番目の「核を持ち込ませず」は死文化しているというのだ。「核兵器搭載艦船は日本寄港の際にわざわざ兵器を降ろしたりしない」と言われた。1991年(平成3年)の冷戦終結に伴い、時の大統領ジョージ・H・W・ブッシュが地上配備の戦術核兵器と海上配備の戦術核ミサイルの撤去を宣言しており、ブッシュ大統領の宣言により平時において核搭載艦船が寄港するなどの形で日本への核持ち込みは無くなった、というのが一応現在の公式見解である。核搭載艦船の日本への寄港はなくなったかもしれないが、核搭載の米原子力潜水艦が定期的に日本近海を周遊していることは確実で、これらのアメリカの核運用によって日本は確実に守られている、というのが日本の核不要論の一つだ。

それともう一つが、日本に従来から備わっている核技術、すなわち「原発」の技術と、H2ロケットなどの技術を組み合わせれば、いつでもやろうと思えば、日本は短期間のうちに核武装することは可能だ、との見方だ。極端な話、日本は「一夜で核武装できる」とも言われた。しかしこれには多くの疑問符がついているのも事実で、軽水炉で長年運用されてきたプルトニウムの燃料棒を、濃縮作業に回して核爆弾に転用しようとしても、ほとんど使い物にならない爆弾しかできない、という見方もあるのだ。ただ、「いつでも核武装できる体制を残す・・・」ことが政府の願望としてあり、そのためにも原発を急激に減らすことはできない、という見方は根強く存在し続けている。

参照文献:

「ニッポン核武装再論」兵頭二十八 並木書房

「核武装論」西部邁 講談社現代新書







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核のしくみ

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