改憲論議

自民党は数十年前からいくつもの改憲案を検討・発表し続けている。

現時点(令和4年)の改憲4項目は以下の通りだ。

①自衛隊の明記

②緊急事態条項

③合区の解消

④教育無償化の明記

9条

中でも最大の目玉はもちろん、一つ目の「自衛隊の明記」つまり9条の改正だ。

9条を改めて見てみよう。

第九条 日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。

②前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。

これはなかなか難しい条文だ。まず小学生以下の子どもがこれを読んでも、これで日本がどうして自衛隊を持てるのか、分からないだろう。なにせ、「武力の行使を放棄する」「戦力を保持しない」というのだから、どんな国際的危機に対しても丸腰で立ち向かうしかない、文章を素直に読めば、そんな風にしか読み取れないだろう。中学生以上の学生さんなら、「常識として」、憲法学者がアレコレ解釈をくっつけて自衛隊を持てるようになっていることは知っているかもしれないが、どういう解釈をすればいいのか、説明できる人は大人でも少ないだろう。

歴史的背景

9条は戦後急いで憲法を作らなければならなかった時期に、幣原喜重郎が作ったとか、幣原喜重郎のアイデアにマッカーサーがOKを出したなどと言われているが、だれがどういう過程で作ったのか明確には分かっていない。日本側に、「軍備がゼロになりかねない条文は受け入れられない」という懸念もあったようだが、憲法第一章で「天皇」の位置づけを明確にすることと引き換えに、9条を受け入れざるを得なかった、という説もあるようだ。つまりこの時期はアメリカの方が必死に日本を「弱体化」させようとしており、日本を二度とアメリカに歯向かえないような国にする必要があった。「戦争放棄条項を受け入れないと、天皇の立場も危うくなるぞ」と日本側を脅す余地があったとのことである。

「国際紛争を解決する手段としての戦争を放棄」というのは「パリ不戦条約」(1928年/昭和3年)にもある文言だ。この辺りの文言は、不戦条約を流用しているだけ、ともいえる。

また有名な議論の一つが「芦田修正」と言われるものである。「日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、」の部分と「前項の目的を達するため、」の部分は憲法策定時の衆議院の小委員会の委員長を務めていた芦田均氏によって事後的に挿入されているのである。

「前項の目的を達するため、」を「国際紛争を解決する」にかからせるとすれば、そして「国際紛争の解決」が「侵略戦争」をさすのだとすれば、2項は「侵略戦争のための戦力はもたない」、しかし「自衛のための戦力はもつことができる」と読み替えることもできなくはない。しかしこれすらも強引な解釈であり、憲法学会の通説としては、9条は侵略戦争のための軍備も自衛戦争のための軍備も放棄する意味の条文だ、という解釈が常識のようである。

自民党の改正案

「9条の2」を追記する、という案がある。

第九条の二 前条の規定は、我が国の平和と独立を守り、国及び国民の安全を保つために必要な自衛の措置をとることを妨げず、そのための実力組織として、法律の定めるところにより、内閣の首長たる内閣総理大臣を最高の指揮監督者とする自衛隊を保持する。

②自衛隊の行動は、法律の定めるところにより、国会の承認その他の統制に服する。

これはこれでよく考えられた文案と思われるが、そもそも2項を残したままでは「戦力の不保持」と「自衛隊」の矛盾は残り続けるのであり、2項削除が先だ、という意見もある。また、「財務省」や「外務省」といった省庁ですら憲法には明記されていないのに、「自衛隊」を憲法に明記するということは、自衛隊を他の行政組織以上の地位に祭り上げてしまう恐れがあり、国の組織管理の観点から見て不自然だ、という意見もある。

 

参照文献:
「9条入門」加藤典洋 創元社

「白熱講義!日本国憲法改正」小林節 ベスト新書








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