少子化対策(子ども政策)

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少子化対策は今まさに岸田政権が力を入れ始めている、政府の目玉政策の一つだ。世間で話題になっているトピックも多いので、多くの人がすでに知っている話ばかりかもしれないが、あらためて考えてみたい。

日本の少子化には多くの問題が絡んでいる。あえて単純化のためにザックリした言い方をすると、①お金の問題と②価値観の問題(価値観のシフトがスムーズに進まないから子育てしやすい雰囲気が社会全般に広がらないし、制度が整うのも遅い)、が一番大きいと私は考えている。もちろん①と②は絡まり合っている部分も多いのだが、それは追い追い説明したい。

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お金の問題

とりあえず議論しやすいのはお金の問題の方なので、こちらの方から入っていきたい。

お金の問題というのはもちろん、子育てにはお金がかかるというものである。今、日本で子供を大学まで進学させようとすると、1人当たり1千万円の費用がかかると言われている。一方で失われた30年の間に、日本の労働者は非正規化が広範囲に進み、年収が300万円以下、という社会人も少なくない。だからこそ結婚して家族を作ることをためらってしまう、あるいはカップルが成立しても子供を作るのをあきらめてしまう、というケースが増えていると考えられる。

今、明石市長を経験された泉房穂さんがこの分野で有名になっているが、明石市では子育てに関する「5つの無料化」と題して、

・18歳までの医療費

・第二子以降の保育料

・中学校の給食費

・プールや博物館など公共の子ども施設の入場料無料

・おむつ定期便(0歳児見守り訪問)

と言ったメニューを、所得制限なしで実践されていたということだ。ちなみにこういう政策は所得制限なしでやった方がはるかに効果は上がるらしい。富裕層もその地域に喜んで参入してくるので、かえって税収が上がるのである。

明石氏の場合は全体の人口規模が30万人ほど、年間予算が2000億円程度とのこと。上記の「5つの無料化」にかかる予算は34億円ほどとのことだ。全体予算の1.7%程度で、これだけの無料化が実現できるのである。こう書くとアッサリしてるように感じられるかもしれないが、泉氏は市長時代に予算の付け替えを次々と実行し、市の担当者や和泉市内の各種の業者さんたちとの軋轢が絶えなかったそうだ。血みどろ、と表現したくなるような政争を乗り越えないと、このような施策は実現できなかったらしい。やはり政治の世界は難しい。

ちなみに、今現在でも公立高校の授業料無償化や児童手当など、昔と比べたら進んだ子育て政策も実施されているわけだが、思い切って「大学までの学費を全て無償化すべし!」という意見も日に日に高まっている。「大学まで無償化」にかかる追加予算はザッと年間+4兆円程度とのことだ。政府は検討してみる価値はあるのではないだろうか。

(結婚に対する)価値観の問題

そしてある意味お金の問題以上に大きな問題だと思われるのが、子育てに関する「価値観の問題」である。これは「結婚に対する価値観の問題」とも言い換えられるかもしれない。

まず、少子化対策でよく出てくる話題として、「社会人の親はどのぐらい育休を取れるのか?」というものがある。日本男性の育休取得率は約14%とのことである。これがスウェーデンだと80%という数字になる。ちなみにスウェーデンだと育児期間中にパートナーの合算で通算480日の育児休暇が取得できる。

これは日本だと、「子育てはお母さんがするもので、お父さんは黙って働けばいいじゃないか」という価値観が根強く残っていることが影響していると考えられる。女性に子育ての負担が過度に集中してしまうため、働きたい女性の出世が阻害されている、ということも昔から言われ続けている。バリバリのキャリアウーマンだった女性が子育てのためにいったん30歳でリタイアし、35歳から職場復帰しようと思って、全く30歳の時の延長線上のように働けるか?というとそうでないケースが大半だろう。こういう社会の雰囲気があるために、日本の男性の家事手伝い率も著しく低いということが問題視されている。

さらに、少子化の大きな原因として、「未婚化」が進んでいる、ということも問題視されている。一応、結婚したカップルだけで統計を取ると、出生率は1.9近い数字が出ているようだ。子育てに様々な問題をはらみつつも、結婚カップルはそれなりに子育てをしているのである。

なぜ未婚がここまで増えるのかというと・・・「お金」の所でも取り上げたように、ある意味格差社会のような状況が進展しすぎて、非正規雇用などの事情で所得の低い社会人が増えている、だから安定した家庭を築けるビジョンが描けず、結婚をスルーする人が増えていることが考えられる。

また、世の中に娯楽が増え過ぎて、一人暮らしをしていても特に寂しさを感じない、一人でも十分楽しく暮らしていける、と考える人が増えている可能性が考えられる。

要は一人暮らしや、仲間とつるんで生きていく生き方に比べて、結婚に対する期待が下がっているのである。結婚しても、いざ結婚生活を始めてみたら、自分の価値観と相手の価値観の細かい違いが気になり始めて、結婚生活そのものを鬱陶しく感じるようになるかもしれない。そういうリスクを避けるために、あえて最初から結婚の、生き方の選択肢としての価値が下がっている可能性が考えられる。ダンナはいらないから子供だけほしい!という女性も増えているとのことである。

先にスウェーデンを取り上げたが、こういう問題に対しても、ヨーロッパの事情は参考になると思われる。これもよく知られていることだが、ヨーロッパではそもそも「婚外子」が多い。あるいはそれは、「結婚の概念」を従来よりグーッと広げている、と言えるのかもしれない。

スウェーデンには「サムボ婚」という、国の法律で定められた事実婚の制度がある。この「サムボ」とは日本語で「同棲」の意味。1988年に施行され、事実婚を法律婚と同等に保護する法律だ。日本では婚外子(非摘出子)として生まれる子供は2%程度だが、スウェーデンではなんと約50%以上の子供が婚外子となる。

一方、フランスにはPACSという制度がある。

PACSは「同性または異性の成人2名による、共同生活を結ぶために締結される契約」(フランス民法第515-1条)と定義され、次のような特徴を持っている。

①締結及び解消手続き

 締結は必要書類を揃えて公証人に依頼、または本人たちが市役所にて手続きを行うことで終了。

 解消はどちらかが申し立てることで解消でき、煩雑な条件や手続きがない。

②社会保障関係

 どちらかが社会保険に加入していない場合、パートナーの社会保険(医療、死亡等)による保証を受けることができる。

 また、出産や子どもに関する家族手当(Allocations familiales)についても結婚と同様に受給できる。

③税制関係

 所得税の共同申告が可能。また、民法上の法定相続人に含まれないため遺言書が必要だが、遺言によって相続人となった場合は

 相続税が免除される。贈与税に関しても一定の控除あり。

④財産関係

 PACS締結後に所得した不動産や車などの財産は共有とする。ただし、相続や贈与によって得た財産には適用されない。

 なお、PACS締結前の財産は、特別に定めない限り所有者に帰属する。

 相続については法律婚と異なり、パートナーへの法定相続、遺留分はなく、遺言書が必要となる。

⑤その他

・パートナー間の扶養義務や救護義務、生活維持のための必要な負債への連帯責任を負う。

・住居について、賃貸契約をしていたパートナーが離別または死亡した際、残された者が継承できる。

・共同での養子縁組不可(カップルの片方のみとの関係であれば可)

あくまでもパートナー主体であり、男、女と別れていないところが絶妙な制度だと思う。女性の働き方に関して、所得税の103万円の壁、健康保険の130万円の壁が話題になることがあるが、それもこういうパートナー主体の制度を採り入れれば解消するのではないかと思われる。



子どもの権利

また、子ども政策の大きな論点の一つになっているのが、ズバリ子ども本人、「子どもの権利」が十分に守られているか?という話である。「少子化対策」という呼称には、政府や親による子どもへの上から目線の雰囲気もあり、批判が出ているようだ。自民党は考え直している最中とのこと。

まだまだ児童虐待のニュースが流れることもある。これも「結婚に対する価値観」と同様、「子どもに対する価値観」の問題と言えるかもしれない。日本では子どもは「親の所有物」のように見なされることが多く、「個々の家庭で親が子供をどんなふうに育てようが、それは親の勝手だ」という風潮が根強くある。これはヨーロッパから見るとかなり奇異な社会的風潮と見えるようである。ヨーロッパでは子どもがかなり小さなころから、1個の人格を持った人間だ、として扱われる社会的風土が根付いているようだ。

「子どもの権利条約」

子どもと先生の広場:日本ユニセフ協会 (unicef.or.jp)

冒頭で取り上げた明石市の取り組みの中にある「おむつ定期便」も、当時の泉市長が、生まれたばかりの子供のいる家庭の様子をうかがうために、どうやってドアロックを解除してもらうか?と考えた末に編み出された施策らしい。虐待、育児放棄などで亡くなる子どもは0歳~1歳が一番多いそうである。

子どもの権利、という観点から言えば、児童手当などの行政からの手当てが、確実に子どもに届いているか、という問題もある。明石市では検診時に子供の姿を確認できた上で児童手当の振り込みをする(子どもの姿が確認できなければ児童手当の振り込みを止め、窓口の受け渡しに切り替える)、等の取り組みを行っているらしい。

また家庭や学校で生きづらさを感じてしまった子供が次に頼れる場所、いわゆる「サードプレイス」をもっと増やすべきではないか?という議論もある。明石市では実際に、子ども食堂を増やす活動も行っている。また児童相談所の内容を充実させるために、相談所内の職員の年収を600万円程度に引き上げて、児童相談の専門家を広く募集しているそうである。

またこれもヨーロッパの取り組みを参照すると、国レベルの子ども権利擁護機関というものが存在する。例えばイギリスには子どもコミッショナー、フィンランドには子どもオンブズマンというものがある。これらの機関は定期的に子どもに関する調査を行い、問題があればすぐに政府に報告する仕組みになっている。子どもの意見を直接聞くアンケート調査を行っているところが、問題解決のリアリティに繋がっていると思われる。

また、近年増えている「離婚」の観点から言うと、離婚後、子どもをどちらの親が預かるのか、子どもはどちらの親にも会えるのか?という問題がある。現状を言うと、日本では離婚後に母親が子どもを預かるケースが多く、その子どもはめったに父親には会わせてもらえない、というケースも多い。これは両親が離婚している時点で子どもにとってもつらい話だが、子どもに会わせてもらえない父親にとっても酷な話だ。これも「母親が子育てするのが当然」の価値観が影響している可能性が考えられる。

ユーチューバーとしても活躍するフィフィさんは、「共同親権」の導入を強く主張している。現行の日本の制度では「単独親権制度」が採られているので、離婚後は父母のどちらか一方にしか親権が与えられないそうである。しかしこれも、先述のようなフランスのPACSのような制度を導入すれば解決に近づくのではないか?と思われる。

子どもの権利条約を順守していますよ、と言える社会に近づけていきたいものだ。

参照、引用元
「社会の変え方」泉房穂著 ライツ社

「少子化対策したら人も街も幸せになったって本当ですか?」泉房穂・ひろゆき共著 KADOKAWA

「まだ本当のことを言わないの? 日本の9大タブー」フィフィ著 幻冬舎

ほか、クレア・パリのHP、歩りえこさんの記事より引用






 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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