火力発電

二酸化炭素削減目標に向けて、火力発電の利用を減らす方向性というが、減らすのがもったいないほど、日本には火力発電の技術を高めてきた歴史がある。

まず日本は戦後の高度成長期を、石油を主に用いた火力発電と水力発電によって大半の電源を調達してきた。ところが70年代の石油ショックによって石油が安定的に輸入できないという事態が生じると、原子力発電の利用を増やすべきという意見が大きくなってきた。ここから原子力の大幅活用の時代が始まっている(原子力の章で詳述)。そして、石油に頼りすぎるのはエネルギー調達の手法として不安定すぎるという意見も大きくなり、石炭火力発電の方式が増えることになった。石油は中東など世界の一部地域に産出が集中する傾向があるが、石炭の方が世界各地に産出地が分散しているので、安定的な調達という意味では優れているのである。

日本の石炭火力発電の熱効率は世界トップクラスと言われる。これを日本国内だけで閉じてみるのではなく、世界にその技術を普及してみたらどうか、という議論がある。中国・米国・インドの3国に日本の石炭火力発電技術を最大限普及させれば、CO2排出量は年間12億トン削減されるという試算もあるようだ。

二国間クレジット制度というものがある。これは、日本が新興国に発電や製鉄、運輸など省エネとCO2排出量削減に貢献する技術を移転させる仕組みだ。日本と技術移転先の国(パートナー国)とで政府間合意を結び、技術移転によるCO2排出量削減分の一部を日本のCO2排出量削減目標に充当できるようにするのである。二国間クレジット制度が拡充された形で確立され、日本の石炭火力発電技術が海外で普及すれば、たとえ日本国内で石炭火力発電所が新増設され、若干CO2排出量が増えたとしても、地球大で言えば、それを上回る規模のCO2排出量の削減が進む。つまり、日本国内での火力発電用燃料コストの抑制と、地球規模での温暖化防止策の進展とが、両立するわけである。

さらに国内での一般供給向け石炭火力発電に対して、適切な水準のカーボンプライシングを実施することも併用するべきである。カーボンプライシングとは、CO2の排出に価格付けを行うことである。二国間クレジット制度が拡充されたとしても、肝心の石炭火力発電技術の海外移転が進まなければ、何事も始まらない。技術移転を促進するためには、何かしらのインセンティブが必要である。カーボンプライシングは、そのインセンティブになりうる。二国間クレジット制度を利用して海外で石炭火力発電所のCO2排出量を減らした事業者は、その分だけ、カーボンプライシングによる負担を軽減することができるからである。

LNG火力発電については、現状ではミドル電源(需要の変動に合わせて出力を緩やかに調整する電源)としてのみ位置づけられているが、これをベースロード電源(継続的に使用する電源)に組み入れるべき、という意見がある。LNGは直近ではウクライナ情勢もあり高騰の傾向もみられるが、アメリカのシェール革命以来、LNG価格は比較的安定的に推移しており、コスト高の批判は必ずしも当てはまらないという指摘もある(コスト高を理由として、ベースロード電源にLNGはふさわしくないという議論があった)。ベースロード電源にLNGを組み入れることができれば、従来のベースロード電源の中の原子力のシェアを減らすことも期待できる。

参照、引用元:
「エネルギー・シフト」橘川 武郎 白桃書房

石炭火力35年までに廃止

個人的には残念な話なのだが、24年4月29~30日にイタリア・トリノで開かれていた環境相会合で、二酸化炭素の排出削減のために、2035年までに石炭火力発電を段階的に廃止することで合意された。段階的に、とあるが、日本も事実上、火力発電所を新設できないことになっている。しかし、細かいネットニュースを見ていると、表向きのメディアニュースに載らないながらも、各地で少しずつ新設されているような情報をチラホラ目にするのだが・・・上にも書いたように、日本の火力発電の技術は日本の世界トップクラスだ。本来であれば、炭素クレジットのような仕組みを利用して、他の国との間で排出権取引をやりながらででも、火力発電所を活かし続ける道を模索し続けてもいいような気もする。

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