ケーススタディ:小泉政権の郵政解散

2001年~2006年の小泉純一郎政権は、様々な改革的事業に意欲的に取り組んだ政権であり、その分物議をかもす出来事も多かったが、現代日本の政治学の考察対象としては、大変示唆に富む政権ではないかと思う。

特に小泉首相のかねてからの持論であり実際に目玉政策として掲げたのが「郵政民営化」だ。

郵政民営化法案について小泉首相は党内の事前審査の省略の可能性について言及した。結局、法案の閣議決定に際して、自民党では総務会で多数決によりこの法案の国会提出を了承した。

ここにすでに興味深いポイントがある。改革意欲に富む小泉首相は、事前審査制そのものをバッサリと廃止したかったとも言われる。「自民党をぶっ壊す」と宣言したのだから、そのぐらいやってもいいだろう・・・と思いがちだが、実は小泉首相ですら、事前審査制度の撤廃はできなかったのだ。そのくらい、与党の力は強いということである。ただ、総務会の了承は本来、全会一致が原則である。ところが小泉首相への世論の後押しが強かったために、多数決だけは認めよう、という流れに変わったのだ。

そして、小泉首相は解散をしたのだから、「郵政民営化法案は衆議院で早速否決されちゃったんだ・・・」と思っている人はいないだろうか?解散できるのは衆議院だけだから、そう考えるのも無理はない。しかし、郵政民営化法案は衆議院で可決されているのである。郵政民営化法案を否決したのは参議院だった。参議院は解散できない。さすがの小泉首相も、衆議員の再議決に望みを賭けるしかないか・・・と普通なら誰もが思うところ、小泉首相はこのタイミングで衆議院解散を決行してしまったのだ。

ここには憲法上の疑義が出たとも言われる。参議院で法案が否決されたからと言って、その法案を可決した衆議院を解散するというのは筋が通らないという批判が当然出てくる。特に、議会を内閣に対する協賛機関と考えれば、解散は内閣に反抗した議会に対する懲罰であり、法案を可決した衆議院をわざわざ解散することには道理が無いように思える。実際、自民党の郵政民営化反対派はこのような批判を行っていた。

それに法案は二つの院で可決されて初めて法律になるという二院制の理念を純粋に尊重するならば、小泉首相のやり方は参議院に対する脅迫ということになる。参議院議員がその表決、行動に関して国民から責任を問われるのは参議院選挙のみであって、衆議院選挙の結果から圧力を受けるというのは、二院制を無意味化するものという批判もあり得よう。

一部に批判の声はあったものの、小泉首相は粛々と解散、総選挙を進め、国会運営を思い通りに進めた。首相の解散権(7条解散)はそれだけ強いということである。

しかしまた一方では、小泉首相は参議院のドンと言われた青木幹雄氏に対して、大変気を遣っていたとも言われる。ここぞというときには参議院に対して攻撃的な姿勢も取ったわけだが、政権期間全体にわたっては、直接解散もできない参議院に対しては気を遣う必要があったということだろう。ここに参議院の強さが現れていると見ることもできそうだ。

参照文献:
「内閣制度」山口次郎 東京大学出版会







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